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【太陽光発電量】パネル枚数が少ない場合、PCSが起動せず発電しないことはありますか?(集合住宅、ベランダ、狭小屋根等で多いケース)

はい。太陽光パネルの直列枚数が少なく、PCSの起動電圧やMPPT動作電圧を満たさない場合、PCSが起動せず、建物側で利用できる交流電力が出力されないことがあります。一般的な発電シミュレーションでは、次のような計算が中心になります。太陽光容量 × 日射量 × 方位・傾斜補正 × 温度・システム損失。一方、PCS型番、MPPTごとの接続枚数、起動電圧などを入力していない診断では、以下の電気設計条件まで自動判定できないことがあります。このため400Wなどパネル一枚のみを試算する場合等はご注意ください。

対応者:樋口 悟

質問

集合住宅、ベランダ、狭小屋根などで太陽光パネルの設置枚数が少ない場合、PCS(パワーコンディショナ)の仕様によって発電しないことはありますか?

また、太陽光モジュールが1枚だけの場合は発電しないのでしょうか?


回答

はい。太陽光パネルの直列枚数が少なく、PCSの起動電圧やMPPT動作電圧を満たさない場合、PCSが起動せず、建物側で利用できる交流電力が出力されないことがあります。

ただし、正確には次のように区別する必要があります。

太陽光モジュール自体は、1枚でも日射を受ければ直流電力を発生します。

一方、その電圧や電力がPCSの動作条件を満たさなければ、PCSが直流を交流に変換できないため、システムとしての発電出力は0Wとなる場合があります。


したがって、「モジュールが1枚だから必ず発電しない」のではなく、モジュールとPCSの組み合わせによって決まります。


太陽光モジュールは直流電力を発生し、一般的な住宅用システムではPCSがこれを交流電力へ変換します。また、モジュールを直列接続すると電圧が上昇します。


1.なぜパネル枚数が少ないとPCSが動かないのですか?

PCSには、主に以下の電気的な制約があります。

PCSの仕様項目

意味

起動電圧

PCSが運転を開始するために必要な最低直流電圧

運転可能電圧範囲

PCSが運転を継続できる直流入力電圧の範囲

MPPT動作電圧範囲

太陽光から最大限の電力を取り出せる電圧範囲

最大入力電圧

PCSに入力してよい直流電圧の上限

最大入力電流・短絡電流

PCSに入力してよい電流の上限

最大入力電力

PCSに接続できる太陽光容量の上限

JPEAの評価ガイドでも、PCSの入力運転電圧範囲・MPPT制御範囲と、ストリングの開放電圧・最大出力動作電圧が適合しているかを確認する必要があるとされています。適合しない場合は発電損失だけでなく、条件によっては機器の故障や損傷につながる可能性があります。


2.直列接続と並列接続の違い

太陽光モジュールの接続方法によって、PCSへ入力される電圧と電流が変わります。

直列接続

モジュールの電圧が加算されます。

ストリング電圧 = モジュール1枚の電圧 × 直列枚数

例として、1枚の最大出力動作電圧が35Vの場合は以下になります。

1枚直列:35V 2枚直列:70V 3枚直列:105V

並列接続

モジュールの電流が加算されますが、電圧は基本的に増えません。

ストリング電流 = モジュール1系統の電流 × 並列数

そのため、モジュールを複数枚設置していても、各PCS入力に1枚ずつ並列接続しただけでは、PCSの最低動作電圧を満たせないことがあります。

重要なのは、建物全体のパネル枚数ではなく、

PCSのMPPT入力回路ごとに、何枚が直列接続されているか

です。


3.一般的なPCSでは1枚だけでは動作しない可能性が高い

例えば、あるPCSの仕様が次の条件だったとします。

運転可能電圧:DC50~450V MPPT動作範囲:DC60~440V

オムロンのPCS・PVユニットの一例でも、運転可能電圧範囲がDC50~450V、MPPT範囲がDC60~440Vと設定されています。PCSの電圧条件は製品ごとに異なるため、実際には対象型番の仕様確認が必要です。(オムロン ソーシアルソリューションズ)

一方、接続するモジュールが以下の場合を考えます。

最大出力動作電圧 Vmp:35V 開放電圧 Voc:42V

1枚の場合

動作電圧:約35V 開放電圧:約42V

起動に必要な50Vや、MPPT下限の60Vを下回るため、PCSが起動しない可能性が高くなります。

2枚直列の場合

動作電圧:約70V 開放電圧:約84V

公称値ではPCSの動作範囲に入ります。

ただし、実際には高温時にモジュール電圧が低下するため、2枚で常に安定動作できるとは限りません。


4.最低直列枚数の基本的な確認方法

PCSとモジュールの適合性は、概ね次の考え方で確認します。

MPPT動作に必要な最低枚数

最低直列枚数 = PCSのMPPT最低電圧 ÷ 高温時のモジュール最大出力動作電圧

端数が生じた場合は切り上げます。

Nmin,MPPT = ceil(VMPPT,min ÷ Vmp,hot)

最大入力電圧を超えない最大枚数

最大直列枚数 = PCSの最大入力電圧 ÷ 低温時のモジュール開放電圧

端数は切り捨てます。

Nmax = floor(VDC,max ÷ Voc,cold)

正常に設計可能な範囲は、概念上次のようになります。

最低直列枚数 ≦ 実際の直列枚数 ≦ 最大直列枚数

ただし、実際の設計では以下も同時に確認します。

  • PCSの起動電圧

  • 最大入力電流

  • 最大短絡電流

  • 最大入力電力

  • MPPTごとの入力条件

  • メーカー指定の接続可能枚数

  • モジュールとPCSの組み合わせ認証・保証条件

JPEAも、PCSとモジュールの仕様表、外気温、STC・NOCTデータなどを基に最適な直列接続枚数を算定することを求めています。


5.温度によって電圧が変わる点にも注意が必要です

太陽光モジュールの電圧は一定ではなく、セル温度によって変化します。

夏季・高温時

モジュール温度が上昇すると、一般的にVmp・Vocは低下します。

そのため、公称値ではPCSのMPPT下限を満たしていても、真夏の屋根上では電圧が下がり、以下が発生する可能性があります。

  • PCSの起動が遅れる

  • 朝夕に停止しやすくなる

  • 起動と停止を繰り返す

  • MPPT範囲外となり発電量が低下する

冬季・低温時

モジュール温度が低下すると、一般的にVocは上昇します。

そのため、直列枚数を多くしすぎると、冬季の低温時にPCSの最大入力電圧を超えるおそれがあります。

温度補正は、概念上次のように計算します。

Vmp(T) = Vmp(STC) ×{1 + βVmp ×(セル温度-25℃)}
Voc(T) = Voc(STC) ×{1 + βVoc ×(セル温度-25℃)}

βVmp・βVocには、対象モジュールの仕様書に記載された温度係数を使用します。


6.日射が弱い時間帯にも停止することがあります

パネル電圧が最低条件を満たしていても、早朝、夕方、曇天、強い影などで入力電力が非常に小さい場合、PCSが安定して運転できないことがあります。

具体的には以下のような状態です。

  • 一度起動するが、入力電力不足で停止する

  • 起動と停止を繰り返す

  • 発電表示が0Wまたはごく小さい値になる

  • 日中の日射が強い時間だけ運転する

したがって、最低直列枚数ぎりぎりの設計は、年間発電量や運転時間の面で不利になる可能性があります。


7.モジュール1枚でも発電できる例外はありますか?

あります。

マイクロインバータ

マイクロインバータは、原則として太陽光モジュール1枚または少数枚ごとに直流を交流へ変換する機器です。

1枚単位の入力を前提として設計された製品であれば、モジュール1枚でもシステムとして発電できる場合があります。

例えば、Enphaseの海外向けIQ8Pの仕様例では、動作電圧範囲16~65V、MPPT範囲36~55V、最低起動電圧22Vとされています。これは1枚のモジュールを直接接続する設計例ですが、日本国内での使用可否は、国内仕様、認証、系統連系要件を別途確認する必要があります。(Enphase)

昇圧器・DC/DCコンバータ

直列枚数が少ない系統の電圧を昇圧し、PCSが必要とする電圧に調整できるシステムもあります。

JPEAの資料でも、直列枚数が異なる系統の電圧調整に昇圧器を使用する構成が示されています。ただし、昇圧による変換損失や、対応機器・接続条件の確認が必要です。

パワーオプティマイザ

パワーオプティマイザを使用していても、必ず1枚だけでシステムを構成できるとは限りません。

集中型PCSと組み合わせる方式では、以下が定められている場合があります。

  • 最低オプティマイザ接続台数

  • 最低ストリング長

  • 固定ストリング電圧

  • PCSごとの最低入力電力

そのため、「オプティマイザ付きだから1枚で発電可能」とは一律に判断できません。


8.集合住宅で特に注意すべきケース

集合住宅では、戸建住宅よりも次の問題が発生しやすくなります。

各住戸に少数枚ずつ設置する場合

建物全体では多数のパネルがあっても、各住戸のPCSやMPPT回路に接続される直列枚数が少なければ、最低電圧を満たさない可能性があります。

方位・屋根面ごとに回路を分ける場合

南面に3枚、東面に2枚、西面に2枚など、方位ごとにMPPTを分けた結果、個々の入力回路の電圧が不足することがあります。

ベランダ・壁面・手すり設置

設置可能枚数が1~3枚程度に限られる場合、一般的なストリング型PCSでは成立しない可能性があります。

影が発生しやすい場合

上階のベランダ、隣接棟、手すり、避難設備などの影により、入力電力が低下し、起動時間が短くなることがあります。

PCSからパネルまでの配線が長い場合

配線抵抗による電圧降下や電力損失も確認が必要です。特に低電圧・大電流側で長距離配線する構成は影響を受けやすくなります。


9.「電圧不足」には直流側と交流側の2種類があります

集合住宅で「電圧の問題」と説明する場合、以下を区別する必要があります。

太陽光側・直流電圧が低い場合

パネル → PCS

パネルの直列枚数不足などにより、PCSの起動電圧・MPPT電圧を満たさない状態です。

主な結果は以下です。

  • PCSが起動しない

  • 発電出力が0Wになる

  • 発電時間が短くなる

系統側・交流電圧が高い場合

PCS → 分電盤 → 電力系統

逆潮流によって系統電圧が上昇し、PCSの電圧上昇抑制機能が動作する場合があります。

主な結果は以下です。

  • PCSの出力が抑制される

  • 一時的に運転停止する

  • 本来期待した発電量より少なくなる

こちらはパネル枚数不足とは別の問題です。JPEAの資料でも、PCSには逆潮流による系統電圧の上昇を防ぐ自動電圧抑制機能があると説明されています。


10.発電シミュレーション上の注意点

一般的な発電シミュレーションでは、次のような計算が中心になります。

太陽光容量 × 日射量 × 方位・傾斜補正 × 温度・システム損失

一方、PCS型番、MPPTごとの接続枚数、起動電圧などを入力していない診断では、以下の電気設計条件まで自動判定できないことがあります。

  • PCSが実際に起動できるか

  • 最低直列枚数を満たしているか

  • MPPTごとの電圧が適正か

  • 温度補正後も動作範囲内か

  • メーカー指定の構成として成立するか

そのため、シミュレーション結果が発電量を表示していても、

実際のモジュール・PCS構成で発電可能であることを保証するものではありません。

特にパネル枚数が少ない案件では、シミュレーション前または提案確定前に、施工会社・設計担当者・機器メーカーへ接続可否を確認してください。

実機構成がPCSの電圧条件を満たさないことが判明した場合は、その回路について発電量を0として扱う、対象外とする、または対応可能な機器構成へ変更したうえで再試算する必要があります。


11.確認すべき情報

少数枚設置の案件では、次の情報をご確認ください。

  1. 太陽光モジュールのメーカー・型番

  2. 公称最大出力動作電圧「Vmp」

  3. 公称開放電圧「Voc」

  4. 最大出力動作電流「Imp」

  5. 短絡電流「Isc」

  6. Vmp・Vocの温度係数

  7. PCSのメーカー・型番

  8. PCSの起動電圧

  9. PCSの運転可能電圧範囲

  10. PCSのMPPT動作電圧範囲

  11. PCSの最大入力電圧・最大入力電流

  12. MPPT回路ごとのモジュール直列枚数

  13. 想定する最低・最高セル温度

  14. 昇圧器、マイクロインバータ、オプティマイザの有無

  15. メーカーが指定する最小・最大接続枚数


まとめ

  • 太陽光モジュール自体は1枚でも直流電力を発生します。

  • ただし、一般的なストリング型PCSでは、1枚の電圧では起動条件やMPPT範囲を満たさず、交流出力が0となる可能性があります。

  • 判断基準はパネルの総枚数ではなく、PCSのMPPT入力回路ごとの直列枚数です。

  • 高温時は電圧低下、低温時は電圧上昇を考慮する必要があります。

  • マイクロインバータなど、1枚単位で発電できる構成もあります。

  • パワーオプティマイザは、必ずしも1枚だけで運転できるとは限りません。

  • 発電シミュレーションとは別に、PCS・モジュールの電気的適合性を確認する必要があります。

「1枚だから発電しない」ではなく、「接続されたモジュールの電圧・電流・電力が、使用するPCSの動作条件を満たすか」で判断します。

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