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産業用自家消費型PVにおける負荷追従ロスと最低購買電力設定ガイド

エネがえるBizで最低購買電力(kW)を設定することで以下のように負荷追従ロスの簡易的な試算は可能です。

樋口 悟 avatar
対応者:樋口 悟
2週間以上前に更新

産業用自家消費型PVにおける負荷追従ロスと最低購買電力設定ガイド

はじめに

100kW~3MW規模の工場・物流施設・事業所向け自家消費型太陽光発電では、**逆潮流(系統への余剰送電)を防ぐために発電出力を需要に追従させる制御(負荷追従制御)が重要です。

この負荷追従制御では、パワーコンディショナ(PCS)やエネルギーマネジメントシステム(EMS)が瞬時に発電を抑制し、需要を上回らないようにします。

しかし実際には制御誤差や応答遅れによるロス(発電出力の抑制による未利用エネルギーや、微小な不足電力の系統からの購入)が発生します。

シミュレーションソフト「エネがえるBiz」では、このロスを明示的には計算していないため、「最低購買電力(kW)」**というパラメータを用いて簡易補正を行うことができます (〖Biz〗最低購買電力(kW)の指定とはなんですか?(負荷追従制御のロスを反映できるか?) | エネがえるFAQ(よくあるご質問と答え)) (〖Biz〗最低購買電力(kW)の指定とはなんですか?(負荷追従制御のロスを反映できるか?) | エネがえるFAQ(よくあるご質問と答え))。

本レポートでは以下のポイントについて詳しく解説し、実務でエネがえるBizの試算補正に活用できるガイドラインを提示します。

  1. 最低購買電力(kW)の意味とロス補正の仕組み

  2. 負荷追従制御における実際の制御誤差・ロス(瞬時過不足・タイムラグ)

  3. 各社PCS/負荷追従制御装置の設定可能な「最低出力制限」や「追従誤差」の相場値

  4. ピークカット・自家消費最大化への影響と、補正無の場合に生じるシミュレーション過大評価

  5. 最低購買電力の推奨設定値(kWまたは負荷割合)とその算出根拠・事例

1. 最低購買電力(kW)とは何か?~意味とロス補正の仕組み~

「最低購買電力」とは、自家消費型PVシステムのシミュレーションにおいて、あえて確保しておく系統からの最低電力購入量を指すパラメータです (〖Biz〗最低購買電力(kW)の指定とはなんですか?(負荷追従制御のロスを反映できるか?) | エネがえるFAQ(よくあるご質問と答え))。

簡単に言えば、「常に最低○kWは電力会社から買うようにする(=発電出力を需要より少し低めに抑える)」と仮定することで、負荷追従制御時の発電抑制ロスをモデル化します。

例えば最低購買電力を5kWと設定すれば、シミュレーション上は需要が太陽光でまかなえる場合でも常に5kWは系統から購入する(=太陽光発電出力を需要より5kW低く抑える)結果になり、逆潮流を防ぐための出力抑制を表現できます (〖Biz〗最低購買電力(kW)の指定とはなんですか?(負荷追従制御のロスを反映できるか?) | エネがえるFAQ(よくあるご質問と答え)) (〖Biz〗最低購買電力(kW)の指定とはなんですか?(負荷追従制御のロスを反映できるか?) | エネがえるFAQ(よくあるご質問と答え))。


【ポイント】:最低購買電力を設定すると、その値分だけ常に系統からの受電を確保する形になるため、太陽光の自家消費量を控えめに見積もることになります (〖Biz〗最低購買電力(kW)の指定とはなんですか?(負荷追従制御のロスを反映できるか?) | エネがえるFAQ(よくあるご質問と答え))。

これは負荷追従装置(例:逆電力継電器RPRや出力制御装置)が実際に「必要以上に発電量を抑えて系統からの受電を確保する」挙動を再現したものです (〖Biz〗最低購買電力(kW)の指定とはなんですか?(負荷追従制御のロスを反映できるか?) | エネがえるFAQ(よくあるご質問と答え))。

2. 負荷追従制御の実際の誤差・ロス ~瞬時過不足とタイムラグ~

リアルタイムの負荷追従制御では、発電と需要を完全に一致させることは理想的には可能でも、実際にはわずかなズレやタイムラグが生じます。このズレは以下の形で現れます:

実際の高精度な負荷追従型システムでは、これらの誤差を極力小さく抑えています。オムロンの完全自家消費システムは「約99%という高い精度」で負荷に追従し、無駄な発電を最小限にしています (完全自家消費低圧単相システムのご紹介 | お役立ち情報 | 再生可能エネルギーを創り活用するエネルギーソリューション | オムロン ソーシアルソリューションズ)。

これはすなわち理論上の需要に対して1%程度の誤差しかなく、常時1%程度の電力を系統から購入するだけで済むことを意味します (完全自家消費低圧単相システムのご紹介 | お役立ち情報 | 再生可能エネルギーを創り活用するエネルギーソリューション | オムロン ソーシアルソリューションズ)。一方、精度が低いシステムでは前述のように10%以上余裕を見なければならず、その場合発電抑制によるロスが大きくなります。


【図:負荷追従制御の概念図】負荷追従制御オプション搭載システムの構成例 (負荷追従制御オプションについて | 太陽光発電を遠隔監視するエコめがね)。左上のグラフは太陽光発電出力と需要(受電電力)の関係を示しており、需要が小さい時間帯には発電を抑制し、一定の受電電力(最低購買電力に相当)を確保していることが分かります。

制御装置は電力メータから需要を①計測し、閾値を下回ると②指示を出してPCSの一部を停止することで③発電抑制を実行します (負荷追従制御オプションについて | 太陽光発電を遠隔監視するエコめがね) (負荷追従制御オプションについて | 太陽光発電を遠隔監視するエコめがね)。これにより0.3秒という高速な応答でRPRの動作を防ぎ、発電ロスを最小限にとどめます (負荷追従制御オプションについて | 太陽光発電を遠隔監視するエコめがね)。

3. 各社パワコン/追従制御装置の「最低出力制限・追従精度」設定値の相場

負荷追従制御の性能指標としては、「追従精度(需要に対して何%まで発電を追従させるか)」や「最低出力制限(常に残しておく系統からの受電の大きさ)」が挙げられます。主要メーカーやシステムの例を挙げると以下の通りです:

設定可能な「最低出力制限値」としては、需要の5~10%(系統受電分)を確保する値が一つの目安で、装置によってkW単位または%単位で調整できます。例えばオムロンのシステムでは自動的に約1%の受電を維持しますし、NTTエコめがね+安川パワコンでは閾値をほぼ0に設定して運用できるようになっています (「エコめがね自家消費モバイルパック」の三相パワーコンディショナ対応機種追加及び「エコめがね完全自家消費三相パワコンセット」販売開始について | NTTスマイルエナジー)。

4. ピークカット・自家消費率への影響とシミュレーション過大評価のリスク

負荷追従制御による発電抑制は、ピーク電力のカット量や自家消費率の見かけに影響を与えます。シミュレーションでこのロスを無視すると、効果を過大評価する可能性があります。

  • ピークカット効果への影響:最低購買電力を設定しないシミュレーションでは、「太陽光発電が需要を完全に満たせばその時間帯の系統購入電力は0になる」と仮定します。しかし実際の負荷追従では完全に0にはできず、少なくとも数kW~数%程度は系統から買電が残ります (最小の構成機器数で最大の発電量を実現する産業太陽光発電向け「完全自家消費三相システム」の発売について | オムロン)。例えばピーク需要が100kWの工場に100kWの太陽光を設置した場合、理想計算ではピーク時の買電0kW(100%ピークカット)になりますが、実際は最低5kW程度の買電を残すとするとピーク電力は5kW発生します。需要電力の尖峰値をゼロにできない分、デマンド契約の削減効果もその分減少します。シミュレーション上0kWと見積もっていたものが実際は5kWとなれば、デマンド費用削減額は過大に見積もられていたことになります。

  • 自家消費エネルギー・損失エネルギー:発電抑制により一部の太陽光エネルギーが利用されず捨てられるため、自家消費率(発電した電力のうち自家消費できた割合)が低下します (オムロンの自家消費システムについて紹介!メリットや注意点も解説 - 太陽光発電所の再生可能エネルギー・カーボンニュートラル情報メディア)。最低購買電力を設定しないシミュレーションでは、「発電した電力は需要の範囲内であれば100%自家消費された」と仮定します。しかし実際は99%程度までしか使えず1%は捨てられる、といったことが起こります (最小の構成機器数で最大の発電量を実現する産業太陽光発電向け「完全自家消費三相システム」の発売について | オムロン)。特に日中需要が小さい場合には発電抑制量(ロスエネルギー)が増え、シミュレーションとの差が大きくなります。例えば需要が50kWしかない時間帯にPVが60kW発電可能でも、逆潮流防止のため50kWまで抑えて発電し10kW分は捨てる、といったケースです。この10kW分はシミュレーション上は有効活用されたと計算されていれば、その分の電力削減効果が実現しないことになります。

  • 経済性評価:上記のピークカット効果・エネルギー自家消費効果の過大評価は、ひいては電気料金削減額や投資回収効果の過大評価につながります。例えば年間の想定自家消費量が5%過大なら、電気料金削減額も同程度過大に出てしまいます。負荷追従ロスを補正しないと、ROI(投資利益率)や回収年数の算定にズレが生じ、実際導入後に「思ったほど削減できない」事態になりかねません。

以上から、精度の高いシミュレーションには最低購買電力による補正が不可欠です。特にピークカットを重視する場合、ピーク時に残る買電(未カット分)が何kWかを見積もっておくことが重要です (〖CROSS TALK〗太陽光は自家消費時代へ── いまパワコンに求められる性能とは?|SOLAR JOURNAL)。高精度な追従装置なら残り数%以内で済みますが、装置性能が不明瞭な場合は5~10%程度のピーク残しを想定しておくと安全です (〖Biz〗最低購買電力(kW)の指定とはなんですか?(負荷追従制御のロスを反映できるか?) | エネがえるFAQ(よくあるご質問と答え))。

5. 最低購買電力の適切な設定値と算出方法

では、実務上エネがえるBizの「最低購買電力(kW)」をどの程度に設定すべきでしょうか。推奨値としては、施設のピーク需要の5~10%程度が一つの目安になります (〖Biz〗最低購買電力(kW)の指定とはなんですか?(負荷追従制御のロスを反映できるか?) | エネがえるFAQ(よくあるご質問と答え)) (〖Biz〗最低購買電力(kW)の指定とはなんですか?(負荷追従制御のロスを反映できるか?) | エネがえるFAQ(よくあるご質問と答え))。エネがえるFAQでも「安全マージン」として5~10%の範囲で設定することが適切とされています (〖Biz〗最低購買電力(kW)の指定とはなんですか?(負荷追従制御のロスを反映できるか?) | エネがえるFAQ(よくあるご質問と答え))。以下に算出の考え方と具体例を示します:

最後に、最低購買電力を設定したシミュレーション結果は「控えめな発電効果」となるため、一見メリットが減ったように見えるかもしれません。しかしこれは実態に即した姿であり、計画倒れを防ぐための健全な調整です (〖Biz〗最低購買電力(kW)の指定とはなんですか?(負荷追従制御のロスを反映できるか?) | エネがえるFAQ(よくあるご質問と答え))。逆潮流対策が万全なシステムほどロスは小さくできますが、それでも数%のロスは織り込むべきです。

したがって、本ガイドラインを参考にシミュレーション段階から適切な最低購買電力を設定し、現実的な効果予測と投資判断を行うことが重要です。

参考文献・情報源

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