1. そもそも JIS 式のどこで何が効いているか
エネがえるの太陽光発電量は、JIS C 8907:2005 に基づく式で計算しています:(エネガエル)
[Ep = K' × K × P × H ÷ G]
垂直パネルの場合に変わるのは「H(傾斜面日射量)」と、設置形態に応じた「温度補正(K の一部)」であって、K' はそのままでも理屈上問題ありません。
2. 垂直パネルの扱い方(エネがえるBiz向けの設計イメージ)
2-1. 傾斜角・方位角で「垂直」を表現
METPV-20 は「傾斜角 β」「方位角 γ」を与えると、任意面の斜面日射量を計算できます。(NEDO)
傾斜角(β)
水平=0°
一般屋根:20〜30°
垂直パネル:β=90°
方位角(γ)(METPV-20 の約束)(NEDO)
南:0°
西:90°
北:180°
東:270°
👉 エネがえるBizの内部表現としては:
「垂直パネル」は 傾斜角 90° を指定するだけで OK
南向き壁面:β=90°, γ=0°
東向き壁面:β=90°, γ=270°
西向き壁面:β=90°, γ=90°
JIS C 8907 の式では、ここで得られる斜面日射量 Hがそのまま Ep 式に入ります。(環境省)
2-2. 基本設計係数 K'(0.85)は「そのまま」で良い
JIS では総合設計係数 K を、基本設計係数 K' と温度補正係数 KPT の積で表しています:(環境省)
[K = K' × K_PT]
K' に入るのは
日射年変動(KHD)
経年劣化(KPD)
配線損失(KPA)
負荷整合(KPM)
など、「設置角度とは無関係な構造的ロス」がメイン。(環境省)
したがって、「垂直だから発電量が減る」は、H(傾斜面日射量)側で表現するのが JIS の思想
なので、K'=0.85 はそのまま共通値で使い、垂直・傾斜・方位の違いは H と温度補正で吸収するのがきれいです。
2-3. 設置形態(野立て/屋根上/建材一体型)は「温度補正」の入力
JIS C 8907 では、温度補正係数 K_PT を求めるために、
設置方式ごとのモジュール温度上昇係数 f1, f2を定義しています。(エネガエル)
例(結晶系シリコン):
設置形態 | JIS用語 | 代表例 | f1 | f2 |
野立て(架台) | 架台設置形(裏面開放形) | 野立て架台、屋根から浮かせた架台 | 46 | 0.41 (エネガエル) |
屋根上 | 屋根置き形 | 折板屋根上の架台、瓦屋根置き | 50 | 0.38 (エネガエル) |
建材一体型 | 建材一体形/屋根一体形 | BIPV屋根・壁面パネル等 | 57 | 0.33 (エネガエル) |
建物エネルギー計算の最新ガイドラインでも、
壁用アレイ・窓用アレイ等は「屋根一体型」と同じ(より保守的な)温度上昇として “その他” にまとめて評価しており、BIPV 系は安全側の値を使うのが一般的です。(kenken.go.jp)
👉 エネがえるBizでの実装イメージ:
設置形態マスタ
「野立て(裏面開放)」 → 架台設置形(f1=46, f2=0.41)
「屋根上」 → 屋根置き形(f1=50, f2=0.38)
「建材一体型(屋根/壁)」 → 建材一体型/屋根一体型(f1=57, f2=0.33)
気温 T_amb と日射量からモジュール温度 T_cell を推定し、
最大出力温度係数 α_Pmax と組み合わせて K_PT を求める。(エネガエル)
垂直パネル(壁面 BIPV)は「建材一体型」+傾斜角 90° として扱う。
3. 具体的な「表現」案(エネがえるBizの設定項目として)
3-1. UI/仕様上のパラメータ設計
① 基本設計係数(K')
ラベル:「基本設計係数 K'」
デフォルト値:0.85(JIS推奨値 ~0.76 を実績に合わせて調整している旨をヘルプに記載)(エネガエル)
設置角度・設置形態に依存させない(共通値)
高精度案件やメーカー条件がある場合のみ、詳細設定画面で上書き可能
② 傾斜角(β)
ラベル例:「傾斜角 β(水平=0°, 垂直=90°)」
入力範囲:0〜90°(あるいは 0〜89°+「垂直」のプリセット)
プリセット案:
屋根勾配から自動変換
「垂直(壁面)」を選ぶと β=90° にセット
③ 方位角(γ)
METPV-20 と同じルールで説明:(NEDO)
南:0°、西:90°、北:180°、東:270°
ラベル例:「方位角 γ(南=0°, 西=90°, 北=180°, 東=270°)」
④ 設置形態
ラベル:「設置形態(温度補正用)」
選択肢:
野立て(裏面開放)→ 架台設置形
屋根上 → 屋根置き形
建材一体型(屋根・壁) → 建材一体型/屋根一体型
「建材一体型」を選ぶと、壁面垂直や窓一体型も含めて
温度上昇が大きい前提(安全側)」の K_PT が使われることをヘルプで明記(kenken.go.jp)
3-2. 垂直パネルの例(仕様説明用テキスト案)
顧客向けの説明としては、こんな感じで表現できます:
垂直パネル(壁面・建材一体型)の発電量は、
JIS C 8907:2005 に基づき、
傾斜角 β=90°
方位角 γ(南=0°/東=270°/西=90°/北=180°)
設置形態「建材一体型」(温度補正係数)
を指定したうえで、NEDO「METPV-20」による傾斜面日射量 H を用いて推計しています。
基本設計係数 K' は、野立て・屋根上と同一の 0.85 を用い、
角度・方位による発電量の違いは日射量 H 側で評価しています。(エネガエル)
4. まとめ:質問の「どう表現したらいい?」への答え
垂直パネルを JIS 式+エネがえるBizで扱う場合の整理:
K'(基本設計係数)
垂直でも水平でも 共通で 0.85 を採用(必要なら詳細設定で上書き)。
傾斜角
垂直パネルは 傾斜角 β=90° で表現。
方位角
METPV-20 と同じルールで γ を指定(南0°, 東270°, 西90°, 北180°)。
設置形態
野立て:架台設置形(裏面開放)
屋根上:屋根置き形
建材一体型(垂直壁含む):建材一体型/屋根一体型相当(温度上昇大きめ=安全側)
この組み合わせで、
「基本設計係数(0.85)× 傾斜角 × 方位角 × 設置形態」
という4つのパラメータにきれいに落とし込みつつ、
JIS C 8907 のロジックと NEDO METPV-20 の日射量データをそのまま活かして垂直パネルの発電量を推計する、という整理になります。
